アニメ虹ヶ咲の感想文 12話

 「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」のアニメ12話を視聴しました。10話・11話と続いてきた侑ちゃんと歩夢ちゃんとのすれ違いがついに決着する回となりましたが、この一週間の体感時間は非常に長かった気がしています。

 今回の話の中で重要となってくるのは「大好きな人が増えていくと、人との距離が離れてしまう」だと思います。

 これまでは幼馴染としてお互いに大切な存在となっていた侑ちゃんと歩夢ちゃんが、スクールアイドルを通して同好会のメンバーやファンたちと関わっていく中で大切な存在が増えていきました。普通であれば人との関わりが増えていくにつれて喜びも増えていきそうな気がしますが、歩夢ちゃんにとっては人との関係が増えていくにつれて侑ちゃんとの心の距離が離れていってしまうように感じたようです。
 この考え方を知ると、これまでの歩夢ちゃんの行動の見方も変わってきました。侑ちゃんがせつ菜ちゃんに魅入られているのを単純に嫉妬しているだけかと思っていましたが、自分自身もファンとの交流を経て侑ちゃんと離れてしまうような実感があったからこそ、侑ちゃんが離れていってしまう恐怖が一際感じられたのでしょう。

 そんな歩夢ちゃんでしたが、せつ菜ちゃんとの会話から自分の好きなことを我慢しないことを決め、侑ちゃんとファンの元に向かいました。
 そこでファンの手によって作られたステージを目にして、ファンから黄色のガーベラを渡された場面ですが、石畳が三叉路のようになっていました。侑ちゃんが道の分かれ目に、片方の道にファンが三人立っている構図は、誰もいなくなる道かファンの待つ道かを歩夢ちゃんが選択を迫られているように見えます。

 しかし、歩夢ちゃんはここでどちらかの道を選ぶのではなく、侑ちゃんもファンの子たちも抱きしめ、自分の大好きな人たちを誰も諦めない選択をしました。侑ちゃんに見てもらうためだけに始めたと言っても過言ではないスクールアイドル活動でしたが、自分にはいいところはないと思っていた自分を応援してくれるファンができたことで、歩夢ちゃん自身のあり方も変わっていったことがわかります。

 そして、1話で初めて歌った階段。あまりステージを見ることはできないという侑ちゃんに、歩夢ちゃんは暗い顔をすることはありませんでした。それはやはり「バラバラでも想いはひとつ」ということを感じているからでしょう。ここで1話とは対照的に、侑ちゃんが歩夢ちゃんへと「音楽をやりたい」という夢を語ります。そこでお互いにこれまでの感謝を伝えた後に、1話と同じように階段を駆け上がった歩夢ちゃんが歌ったのが『Awakening Promise』。『Dream with You』の時よりも力強く、屈託のない笑顔を見せながら歌う姿からは、歩夢ちゃんの心身の成長を感じられました。ダンスシーンも、これまでの歩夢ちゃんの曲の中では「Say Good-Bye 涙」に匹敵するほどの動きの多さであり、わだかまりを超えた先に生まれた曲であることも共通している点かと思います。

 歩夢ちゃんと侑ちゃんのすれ違いは、物理的な距離が離れてしまうと心理的な距離も離れてしまうという考えによるものです。ソロ活動を主とする虹ヶ咲では、ステージに立つのは一人であることが多いですし、スクールアイドルではない侑ちゃんはステージに上がることすらありません。それでも、メンバー同士は固い絆で結ばれており、離れていても心は繋がっています。それを、今回は歩夢ちゃんと侑ちゃんの関係を取り上げることでより深く描かれているように感じました。「交友関係が広がる」ことを「ひとりひとりとの関係は希薄になる」と捉えているところも、それぞれのスクールアイドルがそれぞれのファンと共にステージを作り上げているところから、繋がりが増えてもそれは薄まらないことを示しているようで好印象でした。

 次回はいよいよ最終回です。ソロで活動を行う同好会が、メンバー一丸となってスクールアイドルフェスティバルに挑むという、これまでの総決算とも言えるような話になるわけですが、一話でまとまりきるのか少々不安に感じます。しかし、ここまでいい流れできているアニメなのできっとなんとかなるのだろうと思いながら、次の土曜日を半ば楽しみに半ば寂しく待っていたいと思います。