アニメ虹ヶ咲の感想文 10話

 「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」アニメ第10話を視聴しました。いわゆる合宿回でしたが、「スクールアイドルフェスティバル」という単語が出てきたり、歩夢ちゃんと侑ちゃんとの関係に陰りが見え始めるなど、作品全体として大きな転換点となる回でもありました。

 歴代の合宿回と比べた時、練習している場面がほぼなく、メンバー同士の交流を深める意味合いが強い合宿だったと感じました。夕食の際に侑ちゃんは「みんな本当にバラバラだね」と笑顔で言います。チームで活動するにあたって「バラバラ」なのは欠点と捉えられますが、個性を重視するこの同好会においては「バラバラ」であることが重要であるといえます。「バラバラ」に活動していてもチームとしてのまとまりを損なわない同好会のあり方は、1〜9話に描かれていた通りです。

 ところが、小さなすれ違いが積み重なり、侑ちゃんと歩夢ちゃんの距離が開き始めてしまいます。といっても、おそらく侑ちゃんにはその自覚はなく、歩夢ちゃんだけが感じていることなのでしょう。

 侑ちゃんはせつ菜ちゃんのパフォーマンスに魅せられてスクールアイドルの世界を知りました。それまでの日常をひっくり返すような衝撃を与えてくれたせつ菜ちゃんは侑ちゃんにとって特別な存在であり、せつ菜ちゃんにとっても自分をスクールアイドルの世界に繋ぎとめてくれた侑ちゃんは特別なのだと思います。互いにスクールアイドルに対して並々ならぬ情熱を燃やす者同士、意気投合する場面も多いことでしょう。
 それに対して、歩夢ちゃんはスクールアイドルとしてはかけだしで、スクールアイドルをやっている理由も侑ちゃんと一緒にいたいからです。同好会の仲間が増えていったことは喜ばしく思っていますが、侑ちゃんの視野が広がるにつれて、自分を見てくれている実感が薄れてしまうように感じていたのでしょう。しかし、目を輝かせて突き進んでいく侑ちゃんに対して「自分をちゃんと見て」と言うこともできず、ただ悶々と想いを募らせていくだけになってしまっています。

 そんな状況で発案された「スクールアイドルフェスティバル」。侑ちゃんの夢を体現するかのようなイベントであり、同好会のメンバーも乗り気になっていますが、歩夢ちゃんだけは表情が優れません。ただでさえ先述したような心情なのに、他の学校のスクールアイドルも巻き込んだイベントとなってしまえば、スクールアイドルが大好きな侑ちゃんの興味はさらに広がっていくに違いありません。
 そして、ついには自分は侑ちゃんにとって「数いるスクールアイドルのひとり」になってしまうのではないか。そんな恐怖にも似た不安を歩夢ちゃんは抱き始めているのかもしれません。歩夢ちゃんにとっては侑ちゃんと過ごした全ての時間がかけがえのない思い出ですが、その中のいくつかを侑ちゃんは忘れてしまっています。自分以外の人と関わっていくにつれて、侑ちゃんの中から「上原歩夢」という存在が薄れていってしまうことが嫌。「今の自分がいるのは歩夢のおかげ」と言った侑ちゃんに向けた表情の変化から、私はそのように感じました。

 スクスタでの歩夢ちゃんの考えを輸入する形ですが、歩夢ちゃんは「スクールアイドルフェスティバル」に大きな価値を感じていないのでしょう。どんな形であれ、スクールアイドルとして侑ちゃんの側にいることが歩夢ちゃんにとって何より大切なことです。「スクールアイドルフェスティバル」のような大がかりなことはせずとも、もっと極端なことをいうと同好会に所属していなかったとしても、侑ちゃんと一緒にできればそれで満足なのだと思います。そこで、侑ちゃんが自分から目を離さないでいてくれることが、歩夢ちゃんがスクールアイドルをする最大のモチベーションとなっているのでしょう。
 しかし、侑ちゃんのことを想っているからこそ、トキメキを感じている侑ちゃんの邪魔をしたくないという気持ちも、自分を見てほしいという願望と同じくらい強く抱いているに違いありません。だからこそ、歩夢ちゃんは侑ちゃんとの距離感を測りかね、心が揺れてしまうのでしょう。

 メンバーにいたずらを仕掛けようとしたり、おにごっこを楽しんだりという子どもらしいところや、歩夢ちゃんの心の機微は、高校生である彼女たちの等身大の姿です。こうした、ありのままの高校生の姿が描かれるのはラブライブ!シリーズの魅力となる部分のひとつであり、アイドルである彼女たちは決して特別な存在でなく、むしろ身近な存在であることを感じさせてくれます。

 正直、次週からの展開は全く読めないのですが、個人的にはこのまま歩夢ちゃんが悲痛な表情を続けているとメンタルダメージが蓄積される一方なので、一刻も早く歩夢ちゃんと侑ちゃんの関係が元どおりになることを願いながら次の土曜日を待ちたいと思います。